事例Ⅰで49点→70点を実現した思考法 - 写経によって「理想の企業像」を身体的感覚でつかむ byハリー

タキプロ16期の ハリー と申します。
二次試験 事例Ⅰについてお話させていただきます。どうぞよろしくお願いします。
目次
■はじめに
一回目の二次試験。事例Ⅰについてはそんなに手応えがなかった感じではないのに、返ってきた成績は「49点」。合格にはほど遠い現実に、私は頭を抱えました。何が違うのか、どうすれば合格答案が書けるのか。様々な教材を読み、問題を解いても、全く光が見えない。完全に行き詰っていました。
これを読んでいるあなたも、もしかしたら同じような経験をされているかもしれません。
「与件文に書いてあることを抜き出す試験ではない」とは分かっている。けれど、じゃあどうすればいいのか分からない。
「絶対合格したい、けど前に進まない」そんな暗闇の中で気持ちだけが焦っている感覚でした。
そんな私が、藁にもすがる思いで始めたのが、市販の再現答案集に載っているA評価答案を、ただひたすら書き写す「写経」でした。
正直、最初は「こんな地味なことで本当に効果があるのか?」という疑念もありました。しかし、他に何をすれば前に進めるのか分からなかった私には、とにかくやってみるしかなかったのです。ところが、何回も書き写すうちに、高評価の答案にはある種の「共通点」があることに、ぼんやりと気づき始めました。使われる言葉や表現は違えど、描いている企業の未来像、つまり「解答の向かうべき方向」が驚くほど似ているのです。
その時、いわゆる「開眼」と言われているものなのかもしれませんが、霧が晴れるように視界が開けた感覚がありました。 二次試験には、採点者側が求めている「理想の中小企業像」というゴールが存在するのではないか、と。
この記事では、私が暗い沼から抜け出し、翌年の試験で事例Ⅰの得点を49点から70点にまで押し上げる原動力となった「勉強法と考え方」をお伝えします。
もしあなたが、かつての私のように事例Ⅰで伸び悩んでいるなら、この記事が次の一歩を踏み出すヒントになれば幸いです。
■まず「目的地」を定める―「答案集の写経」から学んだ「理想の企業像」
「写経」で見えてきた理想像
一度目の二次試験では、どんなに問題を解いても、解答に一本の太い「論理の背骨」を通すことができず、ただ「なんとなく良さそうなこと」を並べるのが精一杯でした。
フレームワークを覚えたり、受験生支援団体(タキプロなど)の記事で見つけた他の方のファイナルペーパーを真似て、「こういう問いには、こう返す」という表面的なパターン暗記に終始していたのです。
そんな手探りの状態から抜け出すきっかけが、冒頭で触れた「答案集の写経」でした。とにかく前に進むために始めたこの作業の中で、私は、評価される答案が持つ「ある特定の共通点」に気づき始めます。
「このフレーズ、よく出てくるな」「毎回、この論理構成で書かれているな」
読むだけでは気づけなかったことが、「書く」という身体的な行為を通して、体に刻み込まれていく感覚でした。
それを繰り返すうち、この共通点こそ「試験委員が考える理想の企業像」なのだという結論に至りました。これは単なる解答パターンではありません。試験委員が理想とする中小企業は、こういう考え方を持ち、こういう施策を適切に行える企業なのだ、という明確なイメージが前提として存在するのだと考えたのです。
この前提を理解したとき、私の中で思考の芯が通った感覚がありました。
中小企業診断士に求められているのは、与件文から企業の「現在抱えている問題点」を読み解き、「理想の企業像」とのギャップを、どのような施策で埋めていくのか提案することなのだ、と。
この構造を理解できて初めて、闇雲な改善策ではなく、「この理想の姿になるために、この課題を解決しましょう」という、一貫性のある解答が書けるようになっていったのです。
私が設定した「理想の企業像」リスト
もし、あなたも答案の方向性に迷っているなら、一度ご自身の中に「理想の企業像」を設定してみてはいかがでしょうか。 参考までに、私がファイナルペーパーにまとめていた「理想の企業像」のリストの一部を共有します。
- 【市場適応】
- 取引先のグローバル化や市場の変化を捉え、柔軟に対応しようとしている。
- 海外の好景気や経済特区などの外部環境の変化を、事業機会として最大限に活用している。
- 【リスク分散】
- 特定企業への売上依存から脱却し、複数の販路を持つことで経営リスクを分散している。
- 新規開拓だけでなく、既存顧客との関係性を強化し、顧客生涯価値を高めている。
- 【強みの活用】
- ノンコア事業は外部資源を活用し、自社の「コア・コンピタンス」に経営資源を集中している。
- 独自の技術やノウハウを源泉に、模倣困難性の高い製品・サービスを生み出している。
- 【組織の活性化】
- 部署間の情報共有が活発で、組織全体を活性化させる仕組みがある。
- 公平で納得感のある評価制度が運用され、従業員のモラール(士気)が高い。
- トップダウンだけでなく、現場への権限移譲が進み、社員が自律的に行動できる組織文化が醸成されている。
- 【人材の育成・活用】
- 将来の経営幹部候補を、計画的なローテーション等を通じて育成している。
- 「仕事は見て盗め」という旧来の体制から脱却し、OJTや研修制度で社員の能力開発に努めている。
- 長期的な視点で、新卒採用にも取り組み、組織の新陳代謝や文化継承を促している。
これらはあくまで一例です。大切なのは、ご自身でA評価答案から共通項を抽出し、自分なりの「理想像」を抽象化・言語化するプロセスそのものです。 ご自身の学びの中で、「理想の中小企業ならこう動くはずだ」というイメージの解像度が高まれば、自然と解答の質も上がっていくはずです。
■理想への道筋を描くコア思考―「因果関係」で捉える
解答の目的地である「理想の企業像」が明確になったら、次に必要なのは、そこへ至るための「論理的な道筋」を答案で示す力です。その思考のエンジンとして、私が活用したのが「因果関係」で物事を捉える考え方でした。
「原因 → 対策 → 効果」
与件文の状況(原因・背景)に対し、ある「対策」を講じることで、望ましい「効果」を生み出す。そして、その「効果」の先にあるのが、先ほど設定した「理想の企業像」です。
このシンプルな型に、与件文の情報を整理していきます。
●ケーススタディ①:ネガティブな因果関係
例えば、「新規事業が大きな成果をあげられなかった理由」をこの公式で整理してみます。
- 【原因・背景】
- 事業多角化に際し、自社の強み(高度な印刷技術や強固なネットワーク)を活かせなかった。
- 既存事業とのシナジーが発揮できず、経営資源が分散してしまった。
- 【できていなかった対策】
- 自社の強みを活かせる分野で、既存事業とのシナジーを考慮した多角化戦略を立てること。
- 【効果(出てしまった悪い結果)】
- 他社との差別化ができず、大きな成果をあげられなかった。
このように整理すると、この企業が「何をすべきだったのか」という課題が明確になります。助言問題であれば、この「できていなかった対策」を提案し、「理想の姿(本来得たかった効果)」に繋げていきます。
●ケーススタディ②:ポジティブな因果関係
逆に、成功要因を問われた場合も同じです。例えば、「この企業の問屋ネットワークが強みとなった要因」を整理します。
- 【原因・背景】
- 一次問屋には、相場変動を見据えた調達力や、円滑な供給が求められるという市場環境があった。
- 【対策】
- 二次、三次問屋を巻き込み、大規模なネットワークを構築した。
- 【効果(得られた良い結果)】
- ①販売量増加による「規模の経済性」を獲得できた。
- ②それによって、安価な調達を実現できた。
- ③広域に商品を供給できる体制が整い、競争優位を確立できた。
与件文に散らばっている情報を、この因果の矢印で繋いでいく。この作業を繰り返すことで、複雑に見えた事例企業が、非常にシンプルな構造で見えてくるようになりました。
■解答の精度を上げる応用技術―「レイヤー」と「時制」の視点
「因果関係」の公式をさらに使いこなすため、「レイヤー(階層)」と「時制」という2つの視点を加えました。これを意識するようになってから、解答を多角的かつスムーズに構成できるようになりました。
●視点1:「レイヤー」で捉えると、解答に多角的な視点が入る
組織の問題は、多くの場合、様々な要因が複雑に絡み合っています。そこで、問題を複数の階層(レイヤー)に分解すると、現状をより精緻に理解できます。
- 経営戦略レイヤー: 事業ドメイン、競争優位性、成長戦略 など
- 組織構造レイヤー: 組織形態・階層構造、部門、権限 など
- 組織活性化レイヤー: ネットワーク、コミュニケーション など
- 人的資源管理レイヤー: 採用、配置、評価、育成、モチベーション など
このレイヤーを意識すると、解答が多面的になります。 例えば、「組織活性化」というテーマに対し、「コミュニケーションを増やす」という単一的な解答ではなく、 「評価制度を見直し、納得性を高める(人的資源管理レイヤー)」 「部門横断プロジェクトを設置し、連携を促す(組織構造レイヤー)」 といったように、複数のレイヤーから具体的な打ち手を挙げられるようになります。
ちなみに、多くの受験生が覚えるフレームワーク「サチノヒモケブカイネコ」も、このレイヤーで分解すると、より深く理解できます。「ケ・ブ・カイ」は組織構造、「ネ・コ」は組織活性化、「サチノヒモ」は人的資源管理、といった具合です。レイヤー構造で理解することで、応用力が向上しました。
●視点2:「時制」を意識すると、設問の意図が見えてくる
「時制のチェックが大事」という情報はよく見かけますが、私はその本質を理解していませんでした。与件文の時系列を整理する程度に考えていたのです。
しかし、「理想像」と「因果関係」を意識すると、設問が「過去」と「未来」のどちらを問うているのかが、明確に見えてきました。
- 「理由は?」「要因は?」 → 過去を問う「分析」問題
- これらは因果の「原因」部分を問う問題です。与件文の中から「原因→結果」の因果関係を正確に抜き出し、再構成する力が試されています。
- 「助言せよ」「対策は?」 → 未来を問う「提案」問題
- これが私の解像度を最も上げた気づきでした。
- 多くの人が「助言問題は効果もセットで書く」と覚えますが、思考の順番が重要です。以前の私は「①施策を考える → ②効果を考える」という演繹の発想でした。
- しかし、本質は違いました。助言とは、「現状」から「未来=理想の企業像」へ至る道筋を示すこと。つまり、「あなたの会社が『理想の姿(効果)』に到達するために、この『施策』が必要なのです」と帰納的に考えて提案することだったのです。
- この思考の転換により、単なる思いつきではない、目的地(効果)から逆算した、説得力のある提案ができるようになりました。
■まとめ
私が49点から70点へ飛躍できた思考法は、突き詰めれば以下の3ステップに集約されます。
- 【理想像の確立】 まず、A評価答案の「写経」を通じて、自分なりの「理想の企業像」というゴールを明確にする。
- 【因果で道筋を描く】 次に、その理想像に企業を導くロードマップを「原因→対策→効果」の公式で論理的に示す。
- 【解像度を上げる】 最後に「レイヤー」と「時制」の視点で、提案を具体的かつ多角的なものに磨き上げる。
この考え方は、私が様々な記事などを参考に、多くの失敗と試行錯誤の末にたどり着いたアプローチです。もちろん、これが正解だとは思っていませんし、他にも様々な考え方やアプローチがあると思います。
しかし、もしあなたが今、事例Ⅰの暗いトンネルの中で立ち尽くしているのなら、一度この視点で問題に取り組むことも選択肢の一つに入れてみてもよいかもしれません。実際に私はこれで成長することができました。
この記事が、あなたの視界を晴らし、次の一歩を踏み出すための小さな灯火となれば、これほど嬉しいことはありません。
皆さまの合格を心から応援しています。
■おわりに
次回は、はらしょー さんの登場です。
お楽しみに!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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