事例Ⅰ-困ったときの「サハホイヒ」by ひらく

中小企業診断士 事例Ⅰ

読者のみなさん、こんにちは!
タキプロ16期の ひらく と申します。

今回は、事例Ⅰについて書かせていただきます。

■はじめに

 

事例Ⅰでは、「組織(人事を含む)を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例」が与件文として与えられ、これを読み解いた上で、5問程度の設問の要求に従い、各企業の内外経営環境の分析、診断、および、あるべき姿に向けた取り組みや方向性についての助言を解答用紙に記述します。直近の10年間の事例企業は以下の通りです。

  • 令和6年
    • 業種: 物流サービス企業。当初は運送業、後に倉庫管理事業、3PL事業者を目指す。
    • 事業規模: 売上高30億円
    • 人数: 従業員数120名
    • 概要: 1975年創業。規制緩和後の価格競争下で地元密着高品質輸送を志向し、倉庫管理事業に参入。2代目社長(長女)就任後、首都圏事業部で情報システム強化を進める。3PL事業化に向け、人手不足や人事処遇制度が課題。
    •  
  • 令和5年
    • 業種: 蕎麦店。2023年に近隣の蕎麦店X社を事業譲受し経営統合。
    • 事業規模: 資本金1,000万円。かつて売上1億円も5,000万円に低下後、7,000万円に改善。利益は安定。
    • 人数: 従業員15名(正社員5名、アルバイト10名)。現経営者体制で従業員が定着。
    • 概要: 1960年代後半開業。当初は出前中心の食堂化で成長も、競合激化で低迷。現経営者が蕎麦に集中し、来店型、ファミリー層特化で差別化し業績改善。X社統合でさらなる売上を期待。
    •  
  • 令和4年
    • 業種: 農業法人(株式会社)。サツマイモ、レタス、トマト、苺、トウモロコシなどを栽培・販売。直営店や食品加工も手掛ける。
    • 事業規模: 資本金1,000万円。具体的な売上高の記載はないが、大手中食業者との取引で安定収益。
    • 人数: 従業員40名(パート従業員10名含む)。人手不足が課題。
    • 概要: 戦前からの水稲農家が法人化。苺栽培から開始し、こだわりの野菜栽培へ展開。有機JAS認証、大手中食業者との取引で安定成長。直営店、食品加工、オープンカフェも展開。
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  • 令和3年
    • 業種: 印刷・広告制作会社。ファブレス化し、美術印刷からウェブ制作、広告制作へ事業拡大。
    • 事業規模: 資本金2,000万円。売上回復が課題。
    • 人数: 従業員15名(正社員)。印刷部門5名、デザイン部門10名。
    • 概要: 1960年創業の印刷会社。2代目が印刷工場売却しファブレス化、美術印刷に特化。3代目がデザイン部門を統括し、広告制作へ事業ドメインを拡大。既存顧客からの紹介が主な売上。
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  • 令和2年
    • 業種: 老舗の蔵元。酒造事業に加え、レストランと土産物店を運営する観光地型ビジネス。
    • 事業規模: 資本金2,000万円、売上約5億円(酒造2億円、レストラン・土産物3億円)。
    • 人数: 従業員40名(正規20名、非正規20名)に杜氏を加え実質42名体制
    • 概要: 江戸時代から続く造り酒屋。日本酒消費量減少で廃業寸前も、有力者が買収。現社長が敷地をリニューアルし新規事業を立ち上げ多角化。優秀な人材を活用し成長。
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  • 令和元年
    • 業種: 農業用機械や産業機械装置を製造する中小メーカー
    • 事業規模: 資本金8,000万円、売上高約11億円。かつての最盛期からは減少。
    • 人数: 総勢約80名(ほとんど正規社員)。かつては100名以上。
    • 概要: 創業者の祖父が地方農村部で創業。主力は葉たばこ乾燥機も市場縮小と高コスト体質で経営危機。コア技術を「農作物の乾燥技術」と再定義し、新規事業と市場開拓に成功。
    •  
  • 平成30年
    • 業種: エレクトロニクス・メーカー。研究開発中心で電子機器開発に特化。
    • 事業規模: 資本金2,500万円、売上約12億円。複写機関連製品が売上の約6割。
    • 人数: 役員除く従業員約50名。ほとんど正規社員で、約9割が技術者。
    • 概要: 1970年代後半創業。かつては特注電子機器製造。バブル崩壊で危機に瀕し、複写機関連製品事業で安定収入源を確立。技術者中心の実力主義だが家族主義的文化も。
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  • 平成29年
    • 業種: 菓子製造業。高級菓子の製造販売を行う。
    • 事業規模: 資本金1,000万円、年間売上高約1億円。目標は売上高30億円の中堅菓子メーカー。
    • 人数: 総員約90名(正規社員18名、パートタイマー約70名)。事業規模に対し正規社員は少人数。
    • 概要: 2000年創業。前身X社から主力商品を引き継ぎ再興。地元で高い認知度を誇る。工場移転で効率化と品質向上を実現。全国市場進出と新商品開発が課題。
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  • 平成28年
    • 業種: 老舗印刷業者。学校アルバム事業が主力。一般・美術印刷、企業研修、出版も手掛ける。
    • 事業規模: 資本金4,000万円、売上高約15億円だが減少傾向。利益もほぼ出ていない。
    • 人数: 従業員数約150人前後(非正規社員約15人含む)。「社員は宝」を掲げリストラを回避。
    • 概要: 大正時代半ば創業。少子化やデジタル化で業績悪化。現社長がアルバム事業に経営資源を集中し、新たな市場開拓と組織改革を推進。
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  • 平成27年
    • 業種: プラスチック製品メーカー。関連会社でプラスチック製容器製造、健康ソリューション事業も展開。
    • 事業規模: A社単体で売上高14億円、グループ総売上高約36億円。資本金1,000万円。
    • 人数: A社単体75名。関連会社含め145名(非正規含む)。ほぼ正規社員で年功ベースの人事制度。
    • 概要: 1950年代創業。スポーツ用品から開始も危機に瀕し、自動車部品製造や容器製造で再生。大型成形技術を導入し、健康ソリューション事業も展開中。

こうしてみると、蕎麦屋、印刷業、エレクトロニクスメーカーと、本当に多種多様です。

一方で、人事・組織の在り方については共通ともいえる課題を抱えているケースがほとんどで、こうした業種業態を超えた俯瞰的な視点を持てる、という意味でも、この試験を学ぶ価値があると言えるかもしれません。

■困ったときのサハホイヒ

「人事・組織」に関する診断・助言を検討する切り口として定番なのが「サハホイヒ」です。これは、

  • 採用
  • 配置
  • 報酬
  • 育成
  • 評価

の頭文字をとったもので、設問に対する回答の切り口を多面的に考えたり自らの解答に抜けている視点が無いかをチェックするなど、便利なフレームワークとなっています。

※「サハホイヒ」の各文字が集まっている「茶化」という2文字で覚えている受験生もいるようです。

ここからは「サハホイヒ」について定番の論点を見ていきます。

サ…採用

少子高齢化が進む日本において、人材の確保は年々難しさを増しています。

特に、経営資源や事業規模の面で大企業に劣りがちな中小企業が、優秀な人材を獲得するのは概して困難であり、採用についてのより明確な戦略、すなわち「採用戦略」が求められます。

採用戦略とは、企業が事業目標を達成するために必要な人材を、計画的かつ効果的に確保するための取り組みです。単に求人情報を出すのではなく、事業計画と連動させながら、求める人材像を明確にし、最適な採用手法を選択・実行することで、継続的に優秀な人材を確保し、企業の成長を支えることが目的となります。

採用の方法については、「新卒採用」と「中途採用」に大別されますが、それぞれの長所と短所について整理しておく事も重要です。

●新卒採用

長所:    職務経験がない分、組織文化に馴染みやすく、

新たな視点や発想を取り入れることで多様性の促進が期待できる

短所:    教育・育成に時間とコストがかかる。

新卒採用を成功させるためには、教育体制やコミュニケーションのあり方

についてもセットで検討する必要がある

●中途採用

長所:    職務経験がある分、即戦力としての活躍が期待でき、前職で培った知識や

ノウハウを活かして、これまで自社になかった価値をもたらすことも可能

短所:    反面、過去の経験や価値観が組織文化と合わないリスクがある。

このため、上司や経営者が主体的に関わり、動機づけや指導を行うことが重要

近年の採用形態は多様化しており、リファラル採用(紹介採用)や、定年退職した元社員の再雇用といった選択肢もあります。また、非正規社員の活用も選択肢のひとつであり、契約社員や有期雇用、短時間勤務など、働き方に応じた柔軟な対応を検討する必要があります。

とはいえ、診断士試験においては、あくまで「与件文ファースト」。与件文から合理的に導き出せる選択肢の中から、最適解を検討し、根拠に乏しい独自の解答、いわゆる「ポエム」にならないように注意が必要です。

ハ…配置

人材の「配置」を考える際、まず重要となるのは、その企業の組織形態を把握し、それぞれの特徴や利点・課題を理解したうえで配置を検討することです。

一次試験で学習したように、主要な組織形態には、機能別組織、事業部制組織、マトリックス組織等があります。

●機能別組織:業務を機能ごとに分けて編成される組織形態

メリット
専門性の発揮や規模の経済の実現、中央集権的な管理による統制がしやすい


デメリット
全社的な視点を持つ人材が育ちにくい、責任の所在が不明確になりやすい、

部門間の連携が弱くなりやすい

●事業部制組織:製品・地域・顧客などの事業単位で分かれた組織構造です。

メリット
意思決定が迅速、トップが戦略に専念できる、利益責任が明確になる、

次世代管理職の育成がしやすい
デメリット
セクショナリズムにより全体最適が難しくなる、機能や資源の重複によるコスト増、

短期業績志向に偏りやすい

●マトリックス組織:機能別と事業別の2つの軸で構成される組織形態

メリット
人的資源や情報の共有が促進され、組織の活性化や範囲の経済の実現が期待できる

デメリット
指揮命令系統が複雑になりやすく混乱を招くこと(いわゆる「ワンマン・ツーボス」という状況が発生しやすい)や、管理者間での権限争いが生じやすい

加えて、企業の経営体制として「同族経営」と「非同族経営」の違いにも留意が必要です。

同族経営

メリット
迅速な意思決定が可能であり、株主の影響を受けにくいため長期的な視点

での経営が行いやすい

デメリット
組織の硬直化や会社の私物化、経営者としての能力に欠ける人物が登用されるリスク

非同族経営

メリット

客観的な経営判断や適材適所の人材配置が可能、組織としての柔軟性が保たれる

デメリット
短期業績志向に偏りやすく、買収リスクや経営判断の迅速さ・大胆さが損なわれる恐れ

このように、組織形態や経営体制の特性を正しく理解したうえで、

人材をどのように配置するかを検討することが、事例企業の経営課題に対する的確な提案につながります。

近年は「事業承継」に絡めた人材配置の論点も度々出題されています。後継者育成のためにどのような人材を配置するか、といった視点も持っておきたいところです。

ホ…報酬

報酬は大きく「経済的報酬」と「非経済的報酬」の2つに分けることができます。

これらの言葉自体が試験で登場するわけではありませんが、これらの分類を念頭におくと、社員のニーズが前者・後者どちらにあるがゆえの助言なのか、整理しやすくなります。

経済的報酬

努力や成果に対して経済的なリターンが与えられるものであり、基本給の引き上げ(ベースアップ)や賞与、一時金の支給などが代表例です。また、成果主義制度の導入もその一つであり、個人の実績に応じて報酬を支払う仕組みです。

非経済的報酬

社員の欲求を金銭以外の形で満たすものを指します。たとえば、地位や肩書きを重視する社員には役職を与えること、研究開発志向の社員には新たな知見を得る機会や学会発表の場を提供することなどが該当します。これらは社員のやりがいや満足感につながり、長期的な定着や成長にも貢献します。あるいは社内表彰制度等も社内のモチベーションを高める報酬として機能します。

こうした報酬の設計においては、社員が何を求めているのかを正しく把握することが不可欠ですが、手がかりは与件文の中から見つけ出す必要があります。

イ…育成

「育成」と聞くと、まず、「新人教育」「若手教育」のような従業員の教育を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、教育は組織のあらゆる階層で重要な役割を果たします。

たとえば、中間管理職の教育は、現場をリードできる中堅人材の育成に不可欠ですし、事業承継の局面では、経営者や役員が次世代へ経営のバトンを渡すために、後継者を育てるという視点も重要になります。

人材の能力開発では、

●OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)、
●OFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)
●自己啓発支援

が三本柱です。

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)
実際の業務を通じて、先輩社員や上司が後輩や新人に仕事を教える仕組みです。現場任せの自然発生的なOJTではなく、体系的・計画的に実施することが重要です。

その際には、人事部門と現場が共通認識を持ち、「誰に」「どの期間で」「何を」身につけさせるのかを明確にする必要があります。また、OJTを担当する社員の人事評価項目に「人材育成」を組み込むことも、育成意識の向上につながります。

OFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)
業務を離れて社外の講師を招いたり、外部セミナーに参加したりすることで行う教育手法です。社内に十分なリソースやノウハウがない場合でも、外部の専門的な力を借りて教育を行える点が大きなメリットです。

また、新たな知見やスキルを獲得する機会としても有効です。ただし、実務と直接結びつかない内容であれば、現場での活用が難しくなるため、内容の選定には注意が必要です。

自己啓発支援
社員が自らの意思でスキルや知識の向上に取り組むことを会社が支援・奨励する制度です。たとえば、資格取得を目指す社員に対して、学習支援や取得後の報奨金制度を設けたり、自己啓発の方向性に関する助言やフィードバックの機会を提供したりすることが挙げられます。こうした取り組みによって、社員の自律的な成長を促すことができます。

「経験」(=成長機会)の提供

このように教育制度を整えることは重要ですが、社員育成においては「どのような経験を積ませるか」という観点も同様に重要です。

これまで担当してきた業務に対して、より広い権限や責任を与える「職務充実」や、新たな業務に挑戦させる「職務拡大」などは、社員の視野や成長を広げるうえで効果的です。

また、定期的なジョブローテーションを通じて複数の職種を経験させることで、より多角的な視点や柔軟な対応力を身につけさせることができます。

こうした「経験による育成」は、管理職や将来の後継者を育てるうえでも非常に重要な手法です。

たとえば、事業承継の場面では、後継者候補の社員に対して、まずは部門や小規模組織の責任者としての経験を積ませ、徐々に職務範囲と権限を広げていく「漸増的権限移譲」のアプローチが有効です。

ヒ…評価

人事評価において普遍的に必要とされるのは、まず適切な評価基準を設定することです。

その際には、客観性・妥当性・公平性の3点をしっかりと担保することが重要です。

そして、それらの基準を適切に運用するために、企業ごとに多様な評価手法を組み合わせる必要があります。

評価の側面にはさまざまな切り口があります。

たとえば、成果が明確に数値化できる業務では、実際にどのような成果を上げたかを見る業績評価が有効です。

一方で、成果と個人の努力や能力の関係が分かりにくい業種では、個人が持つスキルや知識に着目した能力評価が適しています。

さらに、チームへの貢献度や組織に対する姿勢といった、定量化が難しい要素については、情意評価によって、献身性や周囲への影響力を判断することが求められます。

こうした評価制度を運用するにあたっては、評価される側の社員に対して基準を明確に伝えることに加え、評価を行う側である上司や管理職に対しても、評価の正しい考え方や方法を習得させる評価者訓練が必要不可欠です。評価の公正さや納得感を担保するためには、評価者自身の理解とスキルも求められます。

また、上司から部下への一方向的な評価に偏ると、評価が固定化されやすくなるという課題もあります。

そのため、上司だけでなく、同僚や部下など、複数の視点から評価を行う360度評価を導入する企業も増えています。多面的なフィードバックを得ることで、よりバランスの取れた評価が可能となり、組織全体の透明性と信頼性が向上します。

■おわりに

以上、今回は二次試験事例Ⅰの定番フレームワーク「サハホイヒ」について見てきました。二次試験本番まで、2か月を切りましたが、体調管理にも気をつけながら、頑張ってください!

この記事が皆さんの学習の役に立てれば幸いです。


次回は、はやひと さんの登場です。 

お楽しみに! 

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