中小企業白書・小規模企業白書6年分総ざらい byサトシ

タキプロ15期の サトシ と申します。
今回は、中小企業白書と小規模企業白書について見ていこうと思います。
中小企業白書って暗記するのが大変ですよね(初学者の方も3月か4月にわかると思います)。確かに選択肢で与えられているので、まっさらな状態で出せなくても選択肢にある内容を見て反応できればOKですが、それでも暗記が大変かと思います。
やっとのことで中小企業白書を暗記したらまだ小規模企業白書もあるんかい!
ってなりますよね。
そこで今回は、中小企業白書や小規模企業白書の奥底にある「流れ・傾向」を紹介します。
この「流れ・傾向」がわかれば、暗記がしやすくなるだけでなく、全く見たこともない資料からの出題でも選択肢を絞ることができます。
それでは、よろしくお願いします。

目次
■木を見て森を見ず?
みなさんが中小企業白書や小規模企業白書から暗記するものは、質問事項に対する具体的な回答内容とその順番になります。この「質問事項」と「具体的な回答内容・順番」は毎年異なるので、【中小企業白書や小規模企業白書は毎年変わる】という認識になるわけです。
しかし、実は白書の奥底にある大まかな流れや傾向は同じなのです。
例えばある年には「事業承継に伴う課題」という質問事項で「後継者の選定」という回答内容になっているものが、別の年では「事業承継に踏み切れない理由』という質問事項で「後継者が見つからないから」となっているイメージです。
これって、具体的な概念では違いますが、抽象的な概念では「後継者を見つける」ということで同じですよね。つまり、国の主張・本音として「後継者を見つけてほしい」というのがあるわけです。
今回はこういう抽象的な概念を把握しておくことがテーマです。
確かに、受験生としては具体的な回答内容や順番を暗記しないといけないので、「木」の内容を暗記することは間違いありません。
しかし、森は木の集まりです。そのため、「森」である白書の奥底にある大まかな流れや傾向を押さえることで、「木」である具体的な回答内容と順番を暗記しやすくなります。
よって、「木を見て森を見ず」ではなく、「森を見て木も見る」というようにやっていくと、中小企業白書と小規模企業白書の内容はスムーズに暗記できるようになります。
この「森」を意識しながら、「木」である白書の具体的な内容をこまめに見ていくと、直前期に慌てて暗記することを避けられると思います。
ちなみに、合格後は「木」ではなく「森」の視点で捉えていくことになります。

■白書6年分を横串しで見ていく
さて、ここからは中小企業白書・小規模企業白書の6年分(令和に入ってからの6年分)を論点ごとに横串し方式で見ていったレポートを掲載したします。
例えば戦略に関することなら6年分の戦略に関するページばかりを見ていきました。その結果、ある程度の傾向や「国の主張・本音」が見えてきました。
はい、私の年末年始はほぼすべて白書6年分の確認で消えました(笑)今からその「成果」を発表いたします。必ずみなさんのお役に立てると思いますし、合格後も役立つと思います。
(実は名古屋と大阪の診断士協会のイベントで白書6年分総ざらいの発表をすることになっていて、診断士にも需要があります)
■6年分の大項目
ここで、中小企業白書と小規模企業白書に掲載されている項目について、見ていきましょう。
大きく分けると以下の20項目に分かれています(コロナ関連データを入れると21項目ですが、こちらは説明の対象外とします)。


(1/1の私の記事でもこのようなスライドを出しましたが、そこから一部修正しています)
この20項目の中には毎年出ているものもあれば、1回しか出ていないものまであります。
では、ここから20項目の内容と「国の主張・本音」をご紹介します。
■1.経済データ
白書に出ている年度・ページと、「国の主張・本音」は以下のとおりです。
(以下、同様にスライドを表示していきます。また、左上には関連科目を掲載しています)

これは定量的なデータを示しているにすぎません。この項目で何かを主張しているのではなく、他の項目で主張するための準備のイメージですね。
また、ここにある内容は中小企業白書も小規模企業白書も共通になります。
■2.戦略立案


実は中小企業・小規模企業は強みを認識していないことが多いです。当たり前すぎて気づいていない、気づいているけどレベル的にそれが「強み」とは思えていないなどです。
だから2次試験の各事例の最初の問題がSWOT分析になっているのです。
■3.組織関係


ここは人事施策、組織構造、組織文化まで幅広く扱われていますが、メインは人事施策になります。
事例Ⅰの問題に人事施策の問題が必ず1問出題されるのもうなずけますね。
組織構造に関しては、人事交流をしたほうがいいとか、権限移譲をしたほうがいいというものはありますが、機能別組織と事業部制組織のどちらがいいというものはありません。
また、「地域の雇用の受け皿」については、小規模企業が対象になります。小規模企業に関しては「小規模企業活性化法」にあるように、やたらと「地域」というフレーズが出てきます。
■4.経営者

ここはそこまで重要なものはありません。
強いて言うなら、経営者としてのスキルを身につけてください、経営者だけでなく従業員まで浸透させてください、というくらいです。
また、他者と交流するのは合格後の診断士も同様です。合格したら積極的に取り組み、いろいろな方と交流したほうが、活躍しやすくなります。
■5.資金調達・資金繰り

ここでのポイントは「しっかりデータを把握して管理してください」です。
小規模企業になるほど管理がいい加減になるという特徴があります。特に会計系に関してはどんぶり勘定とか、税理士事務所など外部の専門家に丸投げということが多いです。
■6.生産性

ここは労働生産性がメインですね。毎年のように労働生産性のグラフが出ています。そして「労働生産性を上げてほしい」という流れにもっていっています。
労働生産性と、それを取り巻く指標(有形固定資産や売上高を経て分解できましたね)は事例Ⅳでも出題されたことがあるので、この機会に復習しておきましょう。
■7.設備・IT・省力化投資


中小企業や小規模企業を訪れると、骨董品かと言いたくなるくらいのパソコンや、恐ろしいほど古い設備をいまだに使っている光景を目にすることがあります。
最新のIT機器や設備を常に導入していけというわけではないですが、「ある程度は新しいものを使ってください。そのための補助金や融資の制度なども用意していますから」というのが国の本音です。
なお、設備投資や省力化投資の話はほとんどなく、IT投資の内容が中心となっています。
「やらない理由」にはパターンがある
設備投資やIT投資に限らず、M&Aや人事施策、新事業への進出など、「新しいことを積極的にやってください」というのが国の本音ではあるのですが、実際にはやらない会社がかなり多いです。
白書ではやらない理由について質問し、回答の資料も掲載しているのですが、これにはある程度のパターンがあります。

言い方を変えれば、全く見たことのない資料から出題された場合でもこの5つを意識すると選択肢を絞り込むことができます。
■8.無形資産(ブランド・知財)

中小企業・小規模企業は経営資源が量的に乏しいため、質でカバーするしかありません。
そのとき、ヒト・カネ・モノでは大企業に負けてしまいますよね。
だからこそ、「情報」である無形資産、つまり技術力や提案力(営業力)、ブランドなどが有効になってきます。また、ノウハウは知財で保護をすることで模倣を防いだり通常実施権でのライセンス収入を得たりすることができます。こういう路線で大企業との競争優位、競争回避を図っていきます。
なお、ブランドに関する内容は診断士のキャリア形成にも応用できるので、ぜひご自身の強み分析をしてブランドを構築してみてください。
■9.イノベーション

中小企業は明らかに研究開発不足だと主張しています。そのため、「補助金も用意しているからもっと研究開発をしてイノベーションを起こしてほしい、そしてブランド化や知財での保護をしてほしい」というのが国の本音です。
頼るところ3トップ
中小企業は自社だけですべてを賄うことはできません。外部の力を活用することが多いです。その「外部」は3パターンあると国は主張しています。
それが「専門家、支援機関、企業」です。
専門家は個人のイメージです。ITや専門性のある分野で高度なスキルを求めているときに使われます。
支援機関は商工会議所、士業、金融機関、よろず支援拠点、自治体などです。
企業は外注(アウトソーシング)を想像すればわかるかと思います。

■10.起業・開廃業・規模拡大縮小


これは単純です。「起業・開業は増やしてほしい、休廃業・倒産は減らしたい」が国の本音です。そりゃそうですよね。企業の数があるほどGDPは増えますからね。
■11.経営改善・再生支援

ここは令和6年度しかありませんが、需要が多い分野になりますので、今後は毎年出てくると思います。
■12.事業継続(BCP)

ここでのポイントは「災害が起きたときにすぐ復帰してほしい」です。そのための計画としてBCPがあります。
事前に複数の対策を講じておきましょう!
中小企業・小規模企業は何かトラブルが生じてから慌てて取り組む企業が多いのが現状で、国はそれだと柔軟・迅速な対応ができないと主張しています。
「事前に、しかも複数の手段を準備しておいてください」というのが国の本音です。

■13.事業承継・M&A


これは令和に入ってから大きく取り上げられるようになりました。
と言っても、事業承継は後継者系、M&Aは投資のような扱いで紹介されています。
事例Ⅰで事業承継(後継者系)やM&Aの問題が増えているのも納得できるかと思います。
設問文にあったような「次世代の組織づくり」というのも中小企業白書に書かれていました。
また、後継者を部門の管理者にしたり他企業で勤務させたりするのも2次試験の問題で出てきましたよね。
さらに、ベテラン従業員のことや取引先との関係のことも設問で出てきましたよね。
■14.物価・為替

ここはそこまでの内容ではありません。「物価上昇や円安の対策をしておいてください」というだけです。
なお、物価と言えばAD-AS曲線、実質と名目の違いですね。円安と言えばマンデル=フレミング=モデル、デリバティブ取引(為替予約・オプション取引)でしょうか。このあたりのことを復習しておきましょう。
■15.取引適正化・価格転嫁


ここでのポイントは「強みを認識し、高付加価値化を図ることで、その分をきちんと価格に反映してほしい(価格転嫁をしてほしい)」ということです。
中小企業・小規模企業は知名度がありません。大企業の商品・サービスと違って値上げをしても買ってくれるわけではありません。そのため、いわゆる「便乗値上げ」ではなく、きちんと値上げをした根拠の説明ができるようにしてほしいというのが国の本音です。
積極的に交渉・提案・情報発信する
「事前に」や「複数」の他に、「積極的」というのも国は主張しています。
特に小規模企業になるほど「うちは小規模だし、意見を言っても通るわけがない。交渉しても無駄だ」という気持ちが社長にあります。だから交渉の打診すらせず、価格転嫁ができない(泣き寝入りするしかない)企業が多くなっています。
そうではなく、きちんと根拠となる強みがあれば交渉を有利に進められるので、ぜひ積極的に交渉してほしい、企画提案してほしいというのが国の本音です。

また、強みや売り、取り組みなどを積極的に情報発信してアピールしてほしいというのも国の本音です。
中小企業や小規模企業は知名度がないので、アピールをしないと消費者は気づく余地がありません。どんどんアピールして消費者に認知してもらいたいというのが国の本音です。
■16.海外展開・立地・地政学リスク


内容的にはほとんどが海外展開の話になっています。
海外展開をして海外の販路開拓をすれば、需要が高まります。そうすると価格を上げられます。そして売上高・利益・付加価値・労働生産性・GDPを上げていってほしいのです。
■17.サプライチェーン

事例Ⅲでも「下請け構造からの脱却」とか「新規取引先を複数開拓して依存度や経営リスクを下げる」という方向性の問題があったと思います。事例Ⅰでも「取引先との関係性強化」の問題がありましたよね。
これらも結局は中小企業白書・小規模企業白書の内容に沿ったものになっています。2次試験の設問は適当な思い付きで作成しているわけではなく、このように中小企業白書・小規模企業白書の内容に沿ったものとなっています。
■18.環境系(GX、SDGsなど)

中小企業や小規模企業は、「こういう環境系の取り組みは大企業のことであって、うちには関係ない」と思っていることが多いです。
そのため、国は「中小企業・小規模企業だって環境のことを考えてくださいね」と主張しています。環境のことを考えた取り組みをすれば、イメージが良くなり、自社のことを認知され、需要が増えて、価格や売上高・利益・付加価値・労働生産性が上がり、最終的にはGDPも向上するというのが国の本音です。
■19.地域系

地域系の内容と言えば「地域活性化、地域ブランド向上、地域の課題解決」などですね。
小規模企業がこの役割を担ってほしいと国は考えています。
小規模企業=地域
地域系の内容は事例Ⅱでよく出てきますよね。そして、事例Ⅱは小規模企業が出題されることが多いです。
それは、小規模企業は地域のことを考えたものとして国が捉えているからです。
その証拠に、小規模企業活性化法ではやたらと「地域」というフレーズが出てきています。
そして、国は「小規模企業こそ地域を支える役割を担っていて、小規模企業が角界化することで地域を盛り上げ、地域の衰退を防いでほしい」と主張しています。

■20.支援機関・伴走支援

中小企業白書や小規模企業白書は、毎年最後のほうに支援機関向けの内容が書かれています。もちろん合格後の診断士も「士業」としてその中に含まれています。
伴走支援というのは、簡単に言うと二人三脚でのコミュニケーションです。コーチングをイメージするとわかりやすいかもしれません。
■おわりに
以上、簡単にではありましたが、中小企業白書と小規模企業白書の内容を総ざらいしてみました。この「流れ・傾向」や「国の主張・本音」がわかると、中小企業白書や小規模企業白書の内容を理解しやすくなりますし、暗記もしやすくなります。
また、合格して診断士になってからも役に立ちますので、ぜひ中小企業白書や小規模企業白書を味方につけてみてください。
今回もありがとうございました。
次回は、こう さんの登場です。
お楽しみに!
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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