事例Ⅰのテーマは「組織変革」である by あおたろ

タキプロ16期の あおたろ と申します。
私は2次試験を2回受けていますが、事例Ⅰは令和5年が75点、令和6年が73点と2年連続で高得点を取ることができました。
本日は、そんな私が事例Ⅰを解くうえで強く意識していたポイントをご紹介します。
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目次
■事例Ⅰでは何が問われるのか
・事例Ⅰのテーマは「組織変革」
事例Ⅰのテーマは、「組織・人事を中心とした経営の戦略及び管理に関する事例」とされています。 これを私なりに言い換えるなら、「経営戦略を実行するための組織構造・人事制度の変革に関する事例」です。 さらにシンプルに表現するなら、「組織変革の事例」と言えるでしょう。 この先はぜひ、「組織変革」という視点を持って読み進めていただけると嬉しいです。
・事例Ⅰのストーリー
事例Ⅰの与件には、以下のようなストーリー展開が多いと感じています。
- 強固な基盤: A社には、創業から大切に培ってきたコアコンピタンスがあります。 このコアコンピタンスを活かすことで、A社は競争優位を確立し、成長を続けてきました。
- 外部環境の波: しかし、外部環境が変化し、これまでの競争優位が揺らぎ始めます。 この外部環境の変化は、ファイブフォース分析(既存業者間の競争、新規参入の脅威、代替品の脅威、売り手の交渉力、買い手の交渉力)やPEST分析(政治、経済、社会、技術)といったフレームワークで分析できることが多いです。
- 変革への挑戦: そこで、A社は変化に対応するため、ビジネスモデルの変革に乗り出します。
- 変革の壁: しかし、変革の道のりは決して平坦ではありません。時に痛みが伴うこともあるでしょう。 なぜなら、長年培われた組織文化や組織風土は、容易には変わらないものだからです。
- 組織内の葛藤: たとえば、経験豊富なベテラン社員は、過去の成功体験に固執してしまい、変革の必要性すら感じていないかもしれません。 一方で、変革の必要性を痛切に感じている若手社員は、そのようなベテラン社員の様子を見て、モチベーションを低下させてしまう可能性があります。
- 社長の苦悩: ベテラン社員に変革の必要性を認識させると同時に、若手社員のモチベーションを高め、組織全体の一体感を醸成するためには、一体何をすべきなのか。A社の社長は頭を悩ませています。
- 診断士への期待: このような状況を打開するために、A社の社長は中小企業診断士であるあなたに助言を求めているのです。
■事例Ⅰで意識すべき3大ポイント
事例Ⅰで意識すべきポイントは、ずばり「チャンドラー・バーナード・人的資源管理」です。
ひとつずつ見ていきましょう。
・ポイント① 組織は戦略に従う
1つ目のポイントは、アメリカの経営学者チャンドラーが提唱した「組織は戦略に従う」です。
これは、まずはじめに企業の戦略があり、その戦略を実現するために最適な組織構造を構築すべきという主張ですが、事例Ⅰに登場するA社は、往々にしてこの逆の状態、つまり「組織が戦略に従っていない」ことが多いのです。
A社は外部環境の変化に直面し、ビジネスモデルの変革を迫られています。しかし、旧来の組織体制を維持したままでは、その変革をスムーズに進めることはできません。 なぜなら、旧来の組織は、過去の外部環境とそれに適応した戦略に基づいて最適化されているため、現在の変化した外部環境や新たな戦略には適合していないからです。まさに、「組織が戦略に従っていない」状態と言えます。
また、独自の強みであるコアコンピタンスを持つA社が、変化する外部環境の中で競争優位を失ってしまう背景にも、組織構造の問題が潜んでいる可能性があります。 コアコンピタンスが持続的な競争優位の源泉となるためには、Value(経済的価値)、Rarity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、Organization(組織)というVRIO分析の4つの要素を満たす必要があります。 この中でも特に重要なのがOrganization、つまり組織としてその強みを効果的に活用できているかという点です。
A社が外部環境の変化に合わせて戦略を転換した場合、コアコンピタンスの活用方法も当然変化します。しかし、旧来の組織構造では、過去の方法でしかコアコンピタンスを活かせず、その潜在的な力を十分に引き出すことができません。これもまた、「組織が戦略に従っていない」状態と言えるでしょう。 コアコンピタンスを最大限に活かし、新たな戦略を着実に実行するためには、その強みを引き出せるような組織の構築が不可欠なのです。
したがって、中小企業診断士であるあなたは、「組織が戦略に従っている」状態を実現するために、A社の現状の戦略や抱える課題を深く理解し、それに合わせた具体的な提案を行う必要があるのです。
・ポイント② 共通目的・貢献意欲・コミュニケーション
2つ目のポイントは、アメリカの経営学者バーナードが提唱した、組織が成立し、維持されるための3つの重要な要素、「共通目的、貢献意欲、コミュニケーション」です。
まず、組織には明確な共通目的が不可欠です。 共通目的を組織全体で共有することで、従業員一人ひとりが同じ目標に向かって進むことができ、組織全体の一体感が生まれます。もし従業員がそれぞれの方向を向いてバラバラに行動していては、組織としての力を十分に発揮できず、脆弱と言わざるを得ません。 A社が組織変革に取り組む際には、その組織改革が一体何を目指すものなのか、その共通目的を明確に定義し、組織全体に浸透させる必要があります。
次に、従業員の貢献意欲を引き出すことが重要です。 共通目的の達成に向けて、従業員の内発的な動機付けを高め、仕事への意欲、すなわちモラールを向上させる必要があります。 新しい戦略に合わせて組織構造を再構築したのであれば、それに伴い、従業員の評価制度、能力開発の仕組み、採用の方針といった人的資源管理の施策も刷新しなければなりません。 適切な誘因(インセンティブ)を与えることで、従業員は積極的に組織に貢献しようとするのです。
そして、円滑なコミュニケーションは、組織運営の生命線です。 共通目的を組織のメンバーにしっかりと浸透させ、その達成に向けた具体的な行動を促すためには、組織内外の円滑なコミュニケーションが不可欠です。 組織は、組織構造という目に見えるハード面と、組織文化や組織風土といった目に見えにくいソフト面から成り立っています。組織構造の変革は比較的短期間で実現可能ですが、長年にわたって形成されてきた組織文化や組織風土は、そう簡単には変えることができません。 だからこそ、組織のリーダーは、メンバーとの対話を積極的に行い、自身の言葉で変革の必要性を丁寧に伝え、具体的な行動を促していく必要があります。 また、メンバー同士が活発に意見交換や情報共有を行うことができるような環境づくりも、リーダーの重要な役割と言えるでしょう。
・ポイント③ 人的資源管理
3つ目のポイントは、戦略の実行と組織変革を支える「人的資源管理」です。 A社は外部環境の変化に対応するために新たな戦略を実行しますが、戦略が変われば、当然求められる人材像も変化します。
例えば、これまで実店舗のみで事業を展開していたアパレルショップが、新たにECサイトを開設するとします。この場合、ECサイト運営に関する専門知識やスキルを持つ人材が不可欠になります。これまで店舗スタッフが組織の大部分を占めていたA社に、Webデザイナー、システムエンジニア、デジタルマーケティング担当者など、多様な専門性を持つ人材が新たに加わることになります。
しかし、A社の人事制度は、組織の多数を占める店舗スタッフを前提に設計されています。例えば、評価制度においては、これまでは店舗の売上が主要な評価指標であったかもしれませんが、Webデザイナーやシステムエンジニアの貢献度を、店舗売上で評価することは適切ではありません。彼らの専門性や成果を適切に評価するための新たな評価制度を設計する必要があります。ただし、その際に既存の評価制度との公平性が保たれていなければ、従業員の不満につながり、組織の一体感を損なうリスクもあるでしょう。
このような問題は、評価制度に限らず、採用、賃金体系、能力開発の仕組みなど、人的資源管理のあらゆる領域で発生する可能性があります。
人的資源管理の役割は、単なる制度設計にとどまらず、組織の戦略を支える人的基盤を整備し、従業員のモラールを向上させることです。 新しい戦略、新しい組織構造、そして新しく入社してくる多様な人材。これらすべてに最適化された人事制度を設計・運用することで、従業員一人ひとりのモラールを高め、組織全体の活性化を図ることが、事例Ⅰでは強く求められるのです。
■おわりに
いかがだったでしょうか?
事例Ⅰは他の事例と比べて抽象度が高く、難しく感じる方も多いかと思います。
しかし、「組織変革」という明確なテーマや、「チャンドラー」「バーナード」「人的資源管理」という3つの視点を意識することで、与件文の読み解き方が大きく変わります。
この記事が、皆さんの事例Ⅰへの理解を深める一助となれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、たーりー さんの登場です。
お楽しみに!
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