マクロ経済学 混同しやすい分析モデルの体系をざっくりと by F田

経済学・経済政策

タキプロ14期のF田です。今回のテーマは、一次試験科目の「経済学・経済政策」です。

9月です。
二次試験まで残すところ1か月半ですね。受験を控えたみなさんにとっては、詰めの時期になるかと思います。
一方で、一か年計画で合格を目指される方や、次年度の一次試験に向けて再挑戦!で本格的に勉強の再始動を始められる方も多いのが今の時期ではないかとも思います。

今日は、そんな皆さんに向けて、一次試験科目「経済学・経済政策」よりマクロ経済学のグラフ問題の解説をさせていただこうと思います。

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■理系でも文系でもとっつきにくい、経済学のグラフ

経済学はたくさんグラフが出てきて混乱しちゃう、、苦手だな。
そう感じる受験生の方、多くおられるのではないかと思います。私は一応大学は理系学部を出ておりますが、経済学のグラフ問題には苦手意識がありました。

グラフや数式が多いとはいえ、経済学は「数学」や「物理」のような理系科目とは異なる分野です。そのため、理系出身の方であってもとっつきにくさを感じてしまうことがままあります。

理系出身の方が引っ掛かりがちなポイントについて、タキプロ13期のににさんがブログにまとめられておりましたので、ご紹介させていただきます。気になる方はこちらの記事をご参照ください。

「文系だからそもそも苦手!」、「理系なのになんかとっつきにくい!」

そんな風に苦手意識をお持ちの方に向けて、今回の記事では混同が生じやすい、マクロ経済学の分析モデルの体系をざっくりと、なるべく数式を使わず整理して解説させていただきます。

ポイントを絞ってざっくり理解いただくことで、より深い理解に進むための取っ掛かりとしていただければ幸いです。

それでは行ってみましょう!

■財市場⇒貨幣市場⇒労働市場

マクロ経済学の出題領域では、「45度線」、「IS-LM」、「AD-AS」のように、その分野に疎い人間にとっては聞きなれない名称で、形も似ていて混同しやすい分析モデルが登場します。

特に過去問演習中心で、あまりテキストに戻らないスタイルで勉強を進めている場合、これらを個別に理解しようとしてもなかなか難しいです。これらの分析モデルは、相互に関連しているためです。関連領域の体系を意識せずに、設問で問われるピンポイントを完璧に理解しようとしても難しいよね、ということです。

そのため、これらの分析モデルに関する問題にしっかり対応するためには、関連領域の知識を体系的に理解することが大切になります。

とは言っても、体系全体を網羅的に理解しようと思うとなかなかにボリューミーで大変です。経済学のみの科目合格を狙うのならまだしも、それ以外の6科目も合わせて勉強する方にとっては勉強時間の配分の面でも少々非効率になりがちです。

「体系をざっくり頭に入れておくことで、過去問演習中心の設問ごとのピンポイント学習の効率を上げる」これが、本記事の狙いです。

ざっくりと、

財市場⇒貨幣市場⇒労働市場

この展開が、マクロ経済学の分析モデルの体系になります。

これをざっくり頭に入れておくことで、かなりとっつきやすくなるはずです。

■財市場の需要と供給の均衡 45度線分析

まずは財市場です。

財市場は、「モノやサービスを生産・消費する市場」です。
ここで登場するグラフが、45度線分析になります。

早速グラフです。
横軸が所得、縦軸が供給と需要になります。

45度線分析のグラフでは、線が2本引かれます。

1本は、原点を通る45度の直線です。この直線は「総供給Ysと総所得Yは常に一致する」ということを表しています。Ysが100なら、Yも100、ということですね。生産されたモノやサービス(総供給Ys)はすべて市場を通して消費され、最終的に所得として分配される(総所得Y)、という見方です。

もう1本の線は総需要(Yd)を表します。所得が無くても最低限生活をしていくために必要になる支出(コメや水など)が基礎消費(C0)新たな生産のために必要なものを買うのが投資(I0)です。これらは所得の量に関わらず必ず必要になる需要ですので、総需要(Yd)を表す直線の切片になります。

ここまでは生活するため、生産するために最低限必要な消費です。

これに、所得に応じて変動する需要を加えたものが総需要(Yd)となります。「ボーナスが出たからちょっといいお肉を食べよう」、というときに、最高級A5ランクの黒毛和牛を選択するか、ちょっとしたブランド牛にとどめるか、選択は人によりまちまちと思います。この、「所得に応じてどれだけ消費するかの度合い」を限界消費性向といいます。「ボーナス出たら全部使っちゃう」タイプの方の限界消費性向は「1」となり、「ボーナスが出ても全額貯金」という方の限界消費性向は「0」になります。これで総需要(Yd)を表す直線の傾きが決まります。

マクロ経済学では、限界消費性向は「0より大きく1より小さい」と決められています。従って総需要(Yd)を表す直線の傾きは、45度線よりも小さくなりますので、グラフ上では45度線と総需要(Yd)を表す直線の交点ができます。この交点が、需要と供給が均衡する「均衡国民所得(Y*)」となります。

総供給=総所得の45度線と、基礎消費量と限界消費性向の組み合わせである総需要の関係から均衡国民所得を導く、ざっくりいうとこれが財市場の分析、45度線分析です。

■財市場-貨幣市場の関係性 IS-LM分析

続いて財市場と貨幣市場の関係性です。

45度線分析では、財市場での需要と供給の均衡についての分析を行いました。
次に登場するIS-LM分析では、財市場と貨幣市場での利子率(r)と国民所得(Y)の関係性から、経済政策の効果を分析します
横軸は45度線分析と同様、分配(所得)となりますが、縦軸が利子率(r)に変わります。

まずはIS曲線から見ていきましょう。
45度線分析で、総需要は消費と投資の合計でした。IS曲線では新たに利子率と投資の関係性を考えます。生産者が生産のための投資を行う場合、手持ちの資金で投資を行うこともあるでしょうが、金融機関などから借金をして投資することもありますね。利子率は低い方が気軽に借金できますね。なので、利子率が上がると投資は減り、利子率が下がると投資は増えます

投資の増減を45度線分析で考えてみましょう。投資が増えればYsとYdの交点である均衡国民所得は大きくなり、投資が減れば均衡国民所得は逆に小さくなります。

これを縦軸が利子率(r)のIS曲線で考えてみましょう。利子率が上がると投資が減って国民所得が減る、反対に利子率が下がると投資が増えて国民所得が増える、でした。これを縦軸利子率(r)、横軸所得(Y)のグラフで表現すると、右肩下がりの曲線が得られます。これがIS曲線です

次にLM曲線です。
LM曲線は、貨幣市場を均衡させる所得と利子率の組み合わせです。貨幣市場が均衡している状態とはすなわち貨幣の需要と供給が均衡している状態です。

貨幣の需要は、製品やサービスを購入するための取引的動機、不測の事態に備えた予備的動機、資産として貨幣を所有する投機的動機によって決まります。

取引的動機と予備的動機は所得の増減に連動して変動しますが、投機的動機は利子率の増減に連動します
利子率が高い場合、所得を貨幣として所有するよりも銀行に預けておいた方が利子が付いてお得なので、投機的動機による貨幣需要は減少します。反対に、利子率が低い場合は、銀行に預けておいても利子が付かないので、現金としていつでも使える(流動性の高い)貨幣の状態で手元に置きたい、つまり投機的動機が高まります。

LM曲線を縦軸利子率(r)、横軸所得(Y)のグラフ上に表現するために、貨幣市場における所得と利子率の関係を考えてみましょう。
利子率が上がると貨幣の投機的動機による需要は減る、でした。需要が減るのでこのとき貨幣市場は供給超過となります。市場が再び均衡状態に戻るためには、貨幣需要を増やす必要があります。

利子率の増加により投機的動機による需要は減少しているので、代わりに取引的動機と予備的動機による需要を増やして均衡状態に移行する必要があります。取引的動機と予備的動機は所得の増減に連動でした。つまりこれらの動機を高めて貨幣需要を増やすには所得が上昇しないといけません。これをグラフ上に表すと、利子率(r)が増加すると所得が増加する右肩上がりの曲線が得られます。これがLM曲線です。

これでIS曲線とLM曲線が引けました。
IS-LM分析では、「財政政策」や「金融政策」によるIS曲線とLM曲線のシフトを見ることで、政策の効果を分析することができます。
この記事の目的は、財市場・貨幣市場・労働市場を表すグラフの体系をざっくり理解することですので、ここでは分析の中身の説明は割愛いたします。

■IS-LM分析+労働市場 AD-AS分析

最後に労働市場の登場です。

IS-LM分析に労働市場の分析を加えたAD-AS分析では、物価水準と国民所得の関係を分析します

グラフの横軸は45度線分析、IS-LM分析と同様に所得(Y)となりますが、縦軸が物価(P)になります。IS-LM分析と同様に、「財政政策」、「金融政策」の効果を分析するグラフになりますが、それを発展させて労働市場も考慮した分析を行うモデルがAD-AS分析です。

まずはAD曲線から行ってみましょう。
IS-LM分析では、「物価は一定」という仮定の下で分析が行われています。この仮定を変えて、物価の変化を考慮した場合、国民所得の水準はどうなるのか、を見ていきます。

今物価がP0からP1まで下落したとしましょう。物価が下落するということは、貨幣の価値が相対的に上昇したことになります。つまり、実質的に、貨幣市場に流通する貨幣量が増加した、ということになります。

貨幣市場のお話なので、ここでLM曲線が登場します。

貨幣が増えたということは、貨幣市場の均衡が崩れて、超過供給となったということになります。この状態から再び貨幣市場を均衡させるためには、金利を下げて貨幣需要の投機的動機を高める(貨幣需要を増加させる)ことが必要になります。

これをLM曲線で考えると、所得が変化しない状況で利子率が低下することになります。したがって、LM曲線が右側にシフトすることになります。LM曲線が右にシフトすると、IS曲線との交点も右側に移動し、所得は増えることになります。つまり、物価の現象によって、所得が増加したことになります。

これを縦軸物価(P)、横軸所得(Y)のグラフ上に表すと、右肩下がりの曲線が得られます。これが、AD曲線です

最後です。AS曲線です。
AS曲線には、労働市場の考え方によって、2つの種類があります。

1つは「名目賃金は伸縮的である」という古典派経済学の考え方の下でのAS曲線です。

物価が上がれば、物価変動前にもらっていた給与の額面の価値は相対的に低下します。給与の額面(名目賃金)は同じでも、その額面で購入できる財の量は減少します。つまり、物価が上昇した際に額面給与が変化しなければ、実質的な給与額(実質賃金)は減少していることになります。

古典派経済学の考え方では、物価の変動(実質賃金の変動)に合わせて、名目賃金は伸縮的(変動する)と考えます。

この仮定の下での労働市場の均衡を考えます。「労働市場が均衡している状態」、というのはつまり労働者が供給する労働力の供給量と、企業が生産するために求める労働力の需要が均衡している状態です。

さて、物価が上がります。物価が上がると、同じものが過去と同じ値段では買えなくなりますので、「実質賃金が低下した」状態になります。実質賃金が下がると、企業としては生産コストが低下する(労働力を安く調達できる)ようになるため、労働の需要が増します。つまり労働市場は超過需要状態となります。

ここから労働市場を再び均衡させるためには、労働の供給を増やすしかありませんが、労働の供給量を増やすためには実質賃金を上げる必要があります。つまり実質賃金が、物価が上がる前の最初の均衡状態まで戻る必要があります。

物価が上がって実質賃金が下がったのだから、物価上昇分給与を増やすことで実質賃金の水準は元通りになります。これは、給与額面が物価変動分増加することを意味します。つまり、物価の上昇に合わせて、名目賃金も上がらざるを得ない、ということになります。

これを縦軸物価(P)、横軸所得(Y)のグラフ上で表すと、横軸に対して垂直なグラフとなります。

もう一種のAS曲線は、「名目賃金は硬直的である」というケインズ派の考え方に基づくものです。

「名目賃金が硬直的である」ということは、簡単に言うと企業は従業員の給料を物価変動に応じて簡単に変更できない、ということです。

物価が上がったからと言って、簡単に賃上げなんてできやしない。一方物価が下がったからと言って、賃下げなんて簡単にできない。だから名目賃金は物価に合わせてそう簡単に変動しない。ということです。

まずは物価が下がったケースについて考えます。
物価が下がると、実質賃金は増加します。実質賃金の増加によって労働市場は超過供給となりますが、これを再び均衡させるために労働需要を増やすか労働供給を減らす必要があります。古典派経済学の考え方では、名目賃金が伸縮的であるため、名目賃金が物価変動前の実質賃金の水準を実現する水準まで下がることで労働市場が再び均衡します。しかしケインズ派の考え方では「名目賃金は下方硬直的である」と仮定していますので、名目賃金は下がりません。企業としては、生産に必要な人件費が増加した状態になりますので、生産を減らします。企業が生産を減らすと、所得が減少します。つまり、ケインズ派のAS曲線では物価が下がると所得が下がる、ということになります。

物価が上昇する場合はどうでしょうか。
物価が上がると実質賃金は減少します。実質賃金の減少によって労働市場は超過需要となります。このときも名目賃金は硬直的であるため、簡単には上がりません。そうなると企業にとっては生産のために必要な人件費が相対的に下がることになるため、生産を増やします。企業が生産を増やすと、所得が増加します

以上を縦軸物価物価(P)、横軸所得(Y)のグラフ上に表すと、右肩上がりのAS曲線が得られます。

ケインズ派の考え方での労働市場についてもう一度確認します。物価が下がった場合、同労市場は超過供給のまま、物価が上がった場合、労働市場は超過需要のままとなります。つまり、働く意思と能力があるにも関わらず働けない労働者が存在することになります。この状態を、「不完全雇用」状態であると表し、この時にケインズ派のAS曲線は右肩上がりとなります。これに対して、労働市場が均衡し、働きたい意思がある人が全員働けている状態を「完全雇用」状態であると表し、この時の所得水準、すなわち「完全雇用所得水準」の下では、ケインズ派のAS曲線も古典派経済学の考え方でのAS曲線と同様横軸に対して垂直となります。

これで、AD曲線とAS曲線が引けました。
AD-ASも、AS-LM曲線と同様に「財政政策」や「金融政策」によるAS曲線とAD曲線のシフトを見ることで、政策の効果を分析することができます。
IS-LMが財市場と貨幣市場のみの関係性を分析するモデルであったのに対して、AD-AS分析は労働市場も含めた総体的な経済状態を分析できるモデルになります。

以上で、

財市場⇒貨幣市場⇒労働市場

の分析モデルの体系を一通り、ざっくり説明できました。

■おわりに

いかがでしたでしょうか?

この記事で解説した内容だけで実際の試験問題に対応するのは難しいですが、混同が生じやすいこれらの分析モデルをざっくり体系的に理解しておくことで、今後より深い学習を進めていく上でのとっかかりになれば幸いです。

どうしてもマクロ経済学の分析モデルが苦手!という方は、「結論だけ覚えておけば何とかなる」作戦も有効かもしれません。Mokaさんの記事に結論だけ覚える作戦の事例が書かれていますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。


次回はアラキさんの登場です。
お楽しみに!

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